“社会人学び直し 政府が支援拡充”、7/30(月)付の日経新聞が一面で報じております。

2019年度から看護師や介護福祉士など専門職の資格取得を目指す社会人への学費助成を1年延ばし、最長4年にするとのこと。資格取得までに4年を要するものとのミスマッチが解消されるなど趣旨は理解でき、その重要性を否定するつもりはありませんが、より有効かつ公平なお金の使い方があるのではないかと思われます。2年前に介護職員初任者研修の修了者として受講料の一部を実際に助成していただき、在学中の明治大学公共政策大学院も助成対象である身として(3年間にひとつしか受給できないため、大学院授業料への助成は受けておりません)、雑感を述べさせていただきます。

まず、今回の支援拡充は雇用保険制度の財政が安定しており、資金が余っていること(積立金 2002年 約4000億円→2016年 6兆円)が出発点になっているとの印象があります。積立金の増加は失業率の低下に因るものと解釈されますが、医療保険、年金、介護保険などの社会保障制度の財政は逼迫の度合いを増し、国家財政全体でみれば危機的状況にあることを踏まえれば、他の使い方があってもよいと思われます。

雇用保険制度下のお金を他制度に利用できない無理を承知で言えば、例えば、雇用保険料を引き下げ、同時に社会保障制度の負担をその分引き上げる(加入者の負担は変わらず)、雇用保険制度の余剰金を債務返済や国家財政健全化のために使用するなどの方がトータルでは有効ではないかと思います。

資格取得のための受講料については、生活困窮者支援や奨学金制度の拡充によって対応する方が、分かり易さの点でも望ましいと思われます。(文科省が紹介する学び直しの制度はこちらから)

雇用保険料を3年納めた人のみが対象とされますが、公務員や自営業の方は対象から外れ、国費が投入されている雇用保険の使い道として不公平であるともいえます。

また、在職中で収入が決して少なくない人に対する助成は、単なる個人の転職支援や“資格”取得支援となる可能性あり、保険料負担者にとって公平な受益と言えず、うがった見方をすれば大学など学校の経営支援であると言われてしまう恐れもあります。所得制限を設けるなり、介護職など特定の業種に転職した場合にのみ支給するとの条件をつけるなどして、助成の目的を明確化すべきかと思います。

介護人材の育成が急務であることは承知しておりますが、仮に資格を取得しても、雇用条件が他業種比著しく低い状況が変わらなければ離職率は下がらないと思われることから、資金を投入するのであれば給与引き上げの原資とする方が効果的ではないかとも考えます。

他国比学び直しが定着していないことを示すものとして、日本は短期高等教育機関への入学者のうち25歳以上が占める割合が低いとのデータが支援拡充の背景として紹介されております。個人的な見解としては、雇用制度や慣習、税率や社会保障料率などの国民負担率の前提が異なる上、“職業訓練“の位置付けに関する考え方も恐らくは同じではなく、解雇が認められているか否かなどの法制度も違う国と単純に比較はできないのではないかと思います。

要は、雇用保険など個別の制度毎にばらばらの運営に終始することなく、そろそろ国家財政というひとつ財布の下での管理を真剣に考えていただきたい、そんな思いに再び至った記事でした。