日大アメフト部の悪質タックル問題も、前監督・前コーチ他への関東学連の処分等が決定したことにより、報道も一旦落ち着きを見せてくるだろう。様々な問題を露呈した今回の事件について、体育会の一OBとして私なりの雑感を述べてみたい。

○ガバナンス
・既に多くの指摘の通り、組織の統治=ガバナンスに問題、すなわち権力の集中が行き過ぎていた。ただ、他大学・他部でも同様の権力と地位を与えられた人は少なくないと思われる。要は、今回の一件はやはりその”人”によると言え、組織の統治が図られていたとしても、同様の事態は起きた可能性は否定できない。

○勝利至上主義
・一部のスポーツ種目は大学の広告塔の役目を果たすなり、期待されているところがある。ガバナンスの問題とも密接に関わるが、勝つことだけが目的化し、勝てば部の幹部の発言力も増し、権力が増強される流れに陥ってものと推測される。私立校故、経営戦略上は正当化されることだと考えられ、この点に関しては必ずしも個人にすべての責任を負わすことはできないかもしれない。

○大学スポーツのプロ化
・悪質なタックルをしてしまった選手は高校での経歴や大学日本代表に選出された実績から判断して、”試合に出ること”が最低限の目的と化し、出れないことは在籍の意義さえ失われてしまうとの感覚に陥っていたものと推測される。この選手は附属校からの進学のようなので該当しないが、アメフトに限らず、特待生で入学した場合は特にそうだと思われるが、大学生活=スポーツの図式となっている学生が少なくない。その後の就職への影響も含め、大学スポーツがプロ化していることの表れだと思う。

プロ化自体も大学の多様化などに鑑み、否定できるものではないが、それだけが学生生活、大袈裟に言えばそれだけが人生じゃないことを教えてあげる誰かがそばにいてくれたら、と今更ながら感じる。ただ、この選手自身が”アメフトが楽しくなくなってきた”といった発言をしていたが、自分でも違和感のようなものを感じていた可能性もある。もしそうであれば、それをある意味逆手にとって衝き動かした大人の責任は重い。

○危機管理
・不祥事に対する大学としての対応の稚拙さが指摘されている。危機管理能力が欠如していたと言われても仕方のない展開であった。
話は逸れるが、自治体においてもこの種の対応力はしっかり身につけておくべきだろう。危機発生時の対応如何では不要なパニックを引き起こしてしまうことがあることを、今回の日大の対応は示唆していると考えられる。特に小規模自治体では自然災害への防災・減災担当は明確に配置されているが、広義の”危機”を管理する人や組織はまだ未整備なところが多いと思われる。広い守備範囲を求められることになるが、テロ・武力攻撃、詐欺、ハイテク犯罪、感染症、(耐震)偽装、インフラ不全、DV・虐待・いじめ・セクハラ・引きこもり、情報漏えい・・・そして今回の様な不祥事。”危機”を一義的に”管理・とりまとめる”機能を有する人材・組織がより重要な世の中であると考えます。

○最後に、”理不尽なこと”について
・『監督が黒といえば白でも黒』と理不尽な世界についての報道がなされている。体育会とは私が在籍した30年前は尚のこと、恐らく今でも多少は理不尽なところがある。理解に苦しむルールがあったり、様々な”原理”に反するしきたりは理不尽である。しかしながら、今回、結果が完全に悪い方に出たのはやはり”人”によるもの、”行き過ぎた”ところによるものと思われる。
私は社会人になった当初も、そして今でも、”体育会で学んだことは?”と聞かれたら、”理不尽を学べたこと”と正直に答えている。それによって世の中で強く生きられた気がしているためである。もちろん、程度の問題であり、私が過ごした大学4年間は幸いなことに、それに感謝できるだけの恵まれた環境だったと言うことだろう。