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去る7月4日(火)・5日(水)、岩手県は紫波町を訪問いたしました。自身3度目となりますが、過去2回はプライベート、今回はオフィシャルな足柄上町村会での研修視察でした。プライベートでは聞くことのできない紫波町職員さんのお話を伺う機会にも恵まれ、非常に有意義な研修となりました。

以下、やや長いですが、視察の報告になります。同様の内容をファイル形式で開成町ホームページ「町長の部屋」にも掲載しております。

※開成町「町長の部屋」はこちらから

1.オガールプロジェクト 

・オガール紫波㈱が提供する有料研修プログラム「オガールプロジェクト(オガール標準コース。講義85分、質疑応答30分、各施設視察30分)」を受講。

※有料の研修につき、資料等の公開は控えさせていただきます。
※本年3月にプライベートで同じ研修を受講した際のこちらの報告①報告②もご参照ください。

(1)紫波町について

・人口約3.3万人、面積約239㎢。県中央に位置し、県庁所在地盛岡市(人口約28.5万人)と花巻市
(人口約9.2万人)の中間。昭和30年、1町8村の合併により誕生。
・豊かな自然や農村の雰囲気と都市の特徴が共存
・果樹生産地。全国屈指のもち米の産地。産地直売拠点が10か所。
・南部杜氏の発祥の地。
・長年にわたり「循環型まちづくり」を掲げ、実行。官民連携にも積極的であり、オガールプロジェクトは
全国的にその先行且つ成功事例とされる。

(2)オガールプロジェクトについて

①概要

・JR紫波中央駅前の10.7haを対象とする都市再生整備事業。
・東洋大学と「公民連携の推進に関する協定書」を締結、民間活力・資金を最大限に活用
(山神が1年間通学した同大大学院公民連携専攻が直接的に関与)。
・複数の複合施設あり。オガールプラザは、町民からの設置要望が最も強かった図書館を核に設計。
・町内産木材を最大限活用し、すべて地元業者が施工するなど、地産地消・地域内経済循環を推進。
ファイナンスも地元金融機関を利用。
・オガール紫波㈱が代理人役として機能、官と民の連携を推進するエンジン役を果たした。

②官民連携によるまちづくりが成功した要因

・財政問題に対する危機感(2007年実質公債費比率23.3%県下最悪)
・藤原前町長、岡崎正信氏のリーダーシップ
・それまでのPFI事業の実績(管理型合併浄化槽事業、火葬場など)

③プロジェクト実行の手順

・「まちづくりは不動産価値の向上」との考え方を重視。
・逆算方式で開発。
“家賃相場を確認→テナントの誘致”、“想定利回りを達成できる工事価格を設定→設計・工事”
・すべての複合施設が入居率100%で開業。

④ オガールプロジェクトエリア内の施設概要

a.岩手県フットボールセンター
・事業主体と事業手法:公益社団法人岩手県サッカー協会、PPP 代理人方式
・事業費と町の支出額:約1.75億円、補助金6,000万円

b.オガールプラザ(官民複合施設)
・事業主体と事業手法:オガールプラザ㈱、PPP 代理人方式
・事業費と町の支出額:約10.7億円、図書館等購入約8.1億円、出資7,000万円

c.エネルギーステーション
・事業主体と事業手法:紫波グリーンエネルギー㈱、随意契約
・事業費と町の支出額:約5億円、ゼロ

d.オガールベース(民間複合施設)
・事業主体と事業手法:㈱オガール、事業者公募
・事業費と町の支出額:約7.2億円、ゼロ

e.紫波町役場
・事業主体と事業手法:紫波町、PFI
・事業費と町の支出額:購入費約33.8億円、33.億円

f.オガールセンター(官民連携複合施設)
・事業主体と事業手法:オガールセンター、代理人方式
・事業費と町の支出額:約3.1億円、ゼロ

g.オガール幼稚園
・事業主体と事業手法:社会福祉法人、事業者公募
・事業費と町の支出額:約3.3億円、補助金約2.2億円

h.オガールタウン日詰二十一区
  ・建築条件付きの土地販売(57区画×228㎡)
  ・“紫波型エコハウス基準を満たすことが条件(年間暖房負荷48kWh/㎡、構造材の80%以上を
町産木材使用など)
  ・町内13事業者が施工。大手ハウスメーカーの参入なし。

⑤オガールプロジェクトがもたらした効果

a.地価上昇
b.雇用創出(令和3年度時点276名)
c.未利用の町有地の活用、地域への民間投資を誘発
d.地元企業による施工、地域内ファイナンス

2.紫波町の取り組みについて

※紫波町役場にて、藤原副町長、企画総務部長、産業部地球温暖化対策課長からご説明と質疑応答

(1) 脱炭素化モデル事業

・町内の水分地区(約33㎢。住宅622戸、民間施設27施設、公共施設7施設)において脱炭素化を図るもの。
・総事業費約55億円、うち交付金約39億円。
・再エネなどによる電力供給量増加により89%+省エネによる電力削減量11%=100%にて、二酸化炭素排出実質ゼロを目指す。
・コンサルを使わず、すべて職員だけで策定。「地域の課題は地域が最も知っているから」との弁。
・具体的な取り組みとしては、生ごみを原料とするメタン発酵バイオガス発電開始、子実用トウモロコシの作付け面積拡大(作業時間は稲作の1/20、所得は稲作の12倍)、太陽光発電設備(約1,100kW)と蓄電池(1,200kW)の導入(温浴施設の光熱費を削減)。

(2) web3タウンの取り組み

・2022年6月「web3タウン」を表明
・Furusato DAO構想の下で、新型地域通貨の発行やNFTを使ったデジタルアートの活用などを通じて、国内外の関係人口を増やし、地域課題の克服を図り、最終的に“多様性のあるまちづくり”、“暮らし心地の良いまち”を目指す。
・地域住民が日常生活で行うボランティア活動や行政支援につながる活動に対してトークン(新型地域通貨)を発行、協働によるまちづくり

(3) 移動デジタル相談

・2002/8~2012/6 日詰商店街に「紫波町ITサポートセンター」を開設。
・2012/7~現在 オガールプラザに移転、「ITサポートコーナー」としてリニューアル。
高齢者へのITサポート、大型プリンターなどのデジタル機器を開放。
・2021/3~ (株)PCデポ、(株)エステルと「地域デジタル化推進に関する包括連携協定」を締結。
無料相談を受け付け(毎週水曜・木曜10時~17時。毎月第3週は町内を巡回)

(4) 企業版ふるさと納税を活用した取り組み

・4つの基本目標を掲げ(※1)、9つの連携プロジェクト(※2)向けの寄附を募集中。
・2020/4、独自の補助制度を創設。
“町が定めるプロジェクトに関する事業を実施しようとする民間事業者から事業提案を募集し、提案する事業者自らが、町外事業者に対して企業版ふるさと納税による町への寄附を呼びかけ、その寄附の範囲内の金額をもって補助金を交付するもの”。

※1 基本目標:
目標1:ローカル経済でしごとが生まれる
目標2:女性・若者に選ばれて、新しいひとの流れが生まれる
目標3:子育て支援・教育の充実で若い世代の安心が生まれる
目標4:民の活力が湧き上がり、時代に合った地域が生まれる

※2 9つの連携プロジェクト
・つないでつむいで 新たな農業応援プロジェクト
・めぐって学んで 感動できる紫波探訪プロジェクト
・おらほの企業 しっかり応援プロジェクト
・暮らしに便利な都市機能充実プロジェクト
・子どもの居場所づくりプロジェクト
・起業家、人材育成プロジェクト
・地域みらいづくりプロジェクト
・公有財産活用プロジェクト
・デジタル化促進プロジェクト

3.研修受講・視察を終えて

(1)オガールプロジェクト

・財政的な危機、長年にわたる不稼働町有地の放置などの課題に対して、“官民連携”にその活路を見出したまちづくり。様々な点で学びが多いことは今更言うに及ばない。
・民間が事業リスクを負うビジネスモデル、第3セクターを有効に活用している点が最も参考になる点である。
・当プロジェクトのキーパーソンである岡崎正信氏のことば『官民連携の成否のカギは、①官・行政が民に委ねる勇気があるか、②民にPublic Mindがあるか』は示唆に富んでいる。今後、開成町において官民連携事業を推進する場合においても、常に重視すべきポイントである。
・開成町の職員にも、具体的に駅前通り線の整備事業を念頭において、是非当研修を受講されたい。

(2)脱炭素化モデル事業

・コンサルを使わず、すべて職員だけで策定した点は非常に高く評価される。やる気と能力を兼ね備えている上に、経営感覚・コスト意識に優れていると言える。
・地域課題の解決のためたに国(環境省)の交付金を採りに行くどん欲な姿勢に学ぶことは多い。

(2)web3タウンの取り組み
・職員は“web3”という最先端の世界にまだ追いついていっていないとの印象を受けたが、同時に、民間に委ねることの重要性や覚悟も感じられた。

(3)移動デジタル相談

・当事業に関わる町の支出はゼロ、連携する民間事業者への支払いは町も利用者(町民)もない、とのこと。
・民間事業者は会員登録を条件とすることで、潜在的な顧客発掘がメリットになるとは言え、採算的に持続性があるか疑問。ただ、(株)エステルの経営者は紫波町出身者であり、生まれ故郷の課題解決のためというPublic Mindを持ち合わせているに相違ない。小規模自治体のまちづくりや課題克服は、概してこういった“人”次第の側面が強いという一例との印象。
・いずれにせよ、開成町においてもデジタルディバイドの課題が存在することは確かであり、そのサポート策をより具体的に展開していきたい。

(4)企業版ふるさと納税を活用した取り組み

・非常に興味深く、独自色の強い取り組みであるが、“バレーボールの町”(世界基準のバレーボール専用体育館、岡崎建設OWLSはクラブカップにおいて3度日本一)であるがゆえに成り立ったとの印象。
・ただ、この独自の仕組み以外の通常の企業版ふるさと納税において、目標を明確に掲げ、具体的なプロジェクトを打ち出していることは非常に参考になる。開成町においても、まずは町の課題克服、もしくは積極的に推進したい事業を整理し、提示することで、寄附側の企業に共感を得ていただく選択肢を提供することからはじめなければならない。
(以上)

#聞きます #やります #やり遂げます

先見と行動

山神 ゆたか

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