「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」の続きです。前回は、その概要と参加主体の役割などについてまとめました。今回は具体的な事例を紹介しつつ、SIBのポイントを整理してみたいと思います。
○対象となる事業は?
SIBは”放っておけば将来増加が予想される社会的コストを予防的に削減する仕組み”であり、”社会的インパクト投資”の一種と言えます。
その対象となり得る分野は、医療・健康(がん検診受診率の向上、生活習慣病の重症化予防、認知症・介護予防、健康ポイント事業)、就労支援、生活困窮者支援、起業支援などが挙げられます。
○実際の取り組み事例
2015年以降、経産省主導の下で、試験的に、認知症重症化の予防(熊本市、松本市他)、生活保護世帯の若者の就労支援(尼崎市)、大腸がん検診受診率の向上(和泉市他)などの事業にSIBが導入されました。
そして、昨年、八王子市が大腸がん検診受診率の向上、神戸市が糖尿病性腎症の重症化予防の事業において本格的に導入しました。さらに今年、新潟県見附市・兵庫県川西市・千葉県白子町の3自治体が県境を越えて広域連携し、健康ポイント事業と生活習慣病の予防事業にて導入するなど実績が増えつつあります。
○八王子市の事例概要
・事業内容:国民健康保険加入者の大腸がんの検診受診率を向上させ、早期にがん患者を発見すること。
・成果指標:①大腸がん検診の受診率、②精密検査の受診率、③早期がん発見者数の3つ。
・業務委託を受けた民間企業による検診受診率の向上に向けた具体的な取り組み内容:
まず、特定健診を受診しない人を受診率向上の対象者に選び、さらにAIを活用して受診勧奨の効果が期待できそうな層を特定し、ターゲットを絞り込み。そして、絞り込まれた対象者を飲酒や喫煙、肥満度などの属性に分類し、それぞれの属性に合わせた勧奨資材を作成し、送付した。
・成果の判断基準(=対価支払いの有無の判断基準):
①大腸がん検診の受診率の場合、2013年度の未受診者のうち2014年に受診した比率“9%”をベースラインに位置付け。
前年度に受診しなかった人のうち、当該年度に受診した人の割合が6%改善し、15%を超えたら、対価(委託料)の支払いが発生。
10%の改善に相当する19%を上限ケースとし、19%以上に改善しても支払額は増えない。
逆に6%以上改善せず、15%に届かない場合は、対価の支払いは一切発生しない。
・医療費削減効果:八王子市は、標準ケース(受診率16%)で1224万円、最大で1684万円の医療費削減の効果がある想定している。
※より詳細にわたる情報はこちらの八王子市の資料をご参照ください。
このシリーズ最終回となる次回は、単独の自治体での導入ではなく、遠隔地にある3市町の連携による導入事例を通して、小規模自治体でも導入が可能であることをお示ししたいと思います。