開成町の古民家”紋蔵”の茅葺き屋根葺き替えプロジェクトに絡み、富士山茅葺きフォーラム(主催:富士宮市根原区)に出席しました。3名からのプレゼンとパネルディスカッション。要旨は以下の通り。
○「狩宿 井出家の歴史と文化財保護」 井出信子様
・平安時代から続く名家。2年前、井出家 長屋の南側屋根を茅吉 杉嵜さんが葺き替え。
・長屋前のヤマザクラは日本最古(樹齢800年)。源頼朝が下馬したとされ、通称“狩宿の下馬桜”。特別天然記念物。
・信子様『茅葺を長年維持するには熱意と資力が不可欠 ; 将来は、市民の憩いの場となったりゲストハウスとして気に入った人が訪れるような施設となって欲しい』

※規模が小さくないことから、私費での維持管理には相当の負担を伴う。開成町”紋蔵”にて取り組み中の手法、すなわち住民参加によるコスト削減、同時に職人育成や教材化、広域での茅葺葺き替えの拠点化など目的を複合化した手法がここでも適用可能ではとの印象。
ご当主はゲストハウス化などに前向きのご様子。襲い掛かってきそうなくらいに近い”富士山”と”茅葺屋根”の魅力は相当あると見込まれ、国内外問わず集客力は間違いなくあると思われる。(フォーラム後、実際に現地を訪れました)

○「井出家の長屋 茅葺屋根葺き替え工事に携わって」 茅吉 杉嵜靖司様
・井出家の長屋葺き替え、茅4,000束使用。竹は千葉から、縄は福井から取り寄せ。
・朝霧高原の茅は細くてまっすぐ。太い茅より質が良く、強い。
・作業は実際は難しいものだが、できるだけ簡単に誰でもできるようになるのが理想。その代わり、資材は良いものを使用すべき。○「茅葺建築保全の課題」筑波大 安藤邦廣 名誉教授
・松は幹や枝は燃料、落ち葉は肥料、松脂はロウソクなど無駄なく使用されてきたが、伐採しなくなったため全国で枯れ続けている。

・江戸時代までは松、竹、ススキがそれぞれ30年、3年、1年サイクルで切り倒され、使用され続けることにそって生え変わり、存続してきた。いずれも使用されなくなる中で、減少し続けている。
琵琶湖の葦(ヨシ)もまったく同様に減少。

・全国的に蜂も減り続けている。蜂の巣の宝庫である茅葺屋根が激減したことも一因だと考えられる。青森の果樹園農家は冬季に蜂の巣作りがひとつの仕事になっている(茅を束ねて軒先に吊るす作業)。ある農家は一冬に4,000個作って販売した。・つくばで倉庫を茅葺屋根のゲストハウスに改造。結婚式にも利用。
・つくば大の中に10町歩の茅場あり。以前は100万円出して、刈り取り、”捨てて”いたが。学生ボランティアの協力などにより現在は有効活用中。

※蜂不足は初耳だった。自然と人間社会の共存や循環が少しずつ壊れているということだろう。安藤先生『茅葺屋根は職人不足などで確かに高価。しかし、化石エネルギーは無限ではない一方で、人間の努力次第でススキやヨシの生産は永遠に可能であることをどうとらえるか?茅が高いとは一概には言えない』との言葉には考えさせられた。”里山”を地域資源や活性化の視点ではなく、地球環境や人間と自然の共存の視点でとらえると非常に深い話になる・・・。