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「東京都が2023年から高校3年生まで医療費を無償化」との報道。横並び意識と自治体間競争から、まずは東京圏の大都市は追随”せざるを得なくなる”のでしょう。再び体力消耗戦の様相となるのでしょうか。

自治体として、納税者へのサービス拡充や生活困窮者支援、定住人口増加などいくつかの目的があろうかと思いますが、時にそれらが曖昧なまま議論が進んでしまう恐れもありそうです。地方単独事業として目的の明確化とセットで議論がなされることを望みます。

余談且つ邪推ですが、ふるさと納税制度が存続していることに対する反撃のようにも見えてしまいます。


さて、本題に戻って、自治体が業務を民間に委託する際に、“成果が出た場合だけ支払いが発生する仕組み”があります。

通称“PFS(Pay For Success)”、直訳すれば“成功に対する支払い”、正式には”成果連動型民間委託契約方式“、長いです。

PFSのうち、民間からの資金調達があるものを“SIB(Social Impact Bond ソーシャルインパクトボンド)”と呼びます。

先日、その名もずばり「PFS・SIB」をテーマにしたオンラインセミナー(主催:科学技術振興機構)を視聴しました。そこまでの市場が育っていないことから、小規模自治体が“単独で”取り組むのは現実的でないものの、広域や遠隔地でも自治体間で連携すれば可能であり、その有用性をあらためて認識した次第です。

3年前にも採りあげました

実は、約3年前に、こちらのブログで“SIB”を採り上げました。
https://yamagamiyutaka.com/archives/1759
https://yamagamiyutaka.com/archives/1765
https://yamagamiyutaka.com/archives/1825

読み返してみると、当時、私は『少子高齢・人口減少社会に入り、社会保障制度の持続性や労働力不足が不安視される中で、様々な社会課題の克服のためにSIBへの需要は確実に強まると予想します』と締めくくっておりました。

予測したほどのペースではないですが、昨年度末までに68自治体で、76件のPFS事業が実施されており、実績は着実に積み上がっています政府としても、補助金を出して一段の推進を図っています

あらためてPFS・SIBとは?

あらためてPFS・SIBがどういうものか簡単に整理します。
・自治体が民間事業者に委託する事業で、
・行政の課題や目標に対応した成果指標を設定し、
・民間事業者に支払う額が成果に連動するものです。

従来型の“委託”との主な相違点は、
・民間事業者に、事業の実施方法に関する一定の裁量が与えられること
・民間事業者も事業目標の達成にかかわるリスクの一部を負うこと
・成果を高めるためのインセンティブが効果的に働くこと、などです。

官民連携の一種

PFS・SIBは、指定管理者制度やPFIなどと同様に、官民連携のひとつの形態です。民間企業のノウハウや知恵を活用せんとするものです。

具体的にノウハウがどのような形で活かされるのでしょうか?
先行事例として、八王子市が取り組んだ「大腸がんの早期発見・早期治療による市民の健康寿命の延伸」と「市民と行政の双方の医療費抑制」を目標とするPFS事業においては、

・検診未受診者(6.5万人)の中から、100項目にわたる分析データからAIを活用して、受診の確率がより高い1.2万人を抽出、※従来は5項目の情報のみ。

・抽出された1.2万人宛に、リスク要因とがんとの関連を個別に細かく分類したオーダーメイドの数十パターンの勧奨通知を発送、 ※従来は3パターンのみ。

・精密検査の受診勧奨もオーダーメイドで作成した上、医療機関用のリーフレットも作成、

などの形で現れました。

成果は?

八王子市の事例では、結果として、がん検診受診率が、八王子市から事業者への支払いが発生する水準が15%であったのに対して26.8%まで、精密検査受診率も同様に79%に対して82.1%まで上昇と、成果が出ました。

八王子市としては、支払いは発生するものの、医療費が適正化された効果が上回ることから、PFS事業に取り組んで正解だったと言えます。

設定された目標を達成できなかったら、支払いはいっさい発生しません。言い換えれば、支払いが発生しないケースとは、PFS事業に取り組んだこと自体の効果がなかったケースとなります。

国の方針と補助金

国としては、“医療・健康、介護、再犯防止”を重点3分野に位置づけ、令和4年度末までに100以上の自治体が実施することを目標にしています。

令和4年度は7,000万円の予算を用意し、成果連動の支払い部分の1/2(上限1,000万円)と、資金調達に関する経費の10/10(上限500万円)を補助します。

小規模自治体で取り組むには

事例で紹介されるのは大規模な自治体ばかり、令和3年度の公募で採択された4市もすべて人口10万人以上でした。開成町のような人口2万人にも満たない町では取り組み不可でしょうか?

いや、小規模自治体でもやろうと思えばできます。参考になる事例がふたつあります。

ひとつは広島県と県内6自治体による広域連携型(事業目標は八王子市と同様に大腸がん検診者数と精密検査受診率)。県が主導すれば可能と言えます。

もうひとつは、“同じ志を持つ遠隔の自治体”による連携型。兵庫県川西市と新潟県見附市(人口4万人)、千葉県白子町(人口1.1万人)が連携して、健幸ポイントプログラムや生活習慣病予防プログラムなどを実施し、医療費の抑制を目指したものです。

案件の組成には民間事業者の全面的なサポートが不可欠ではあるものの、この形であれば参加可能です。

医療や介護などの重点分野以外にも、教育や就労支援、まちづくりなどでも可能とされ、数はまだ少ないですが、先行事例も存在します。

コロナ禍を受け、社会環境が激変する中、小規模自治体においても積極的にチャレンジすべきであると考えます。勿論、それ以前に、課題を的確につかむことや身の丈にあったお金の使い方がより大事ではあるものの、先行きを見据えて果敢に挑戦する自治体、すなわち“動いている自治体”は魅力を発信すると確信しています

#聞きます #やります #やり遂げます

先見と行動

山神 ゆたか

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